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夢は変わっても、心の軸は変わらなかった。三代目書道家が選んだ今。      【下田 彩水氏】

下田書道会

書と向き合う日々。教室と作品で届ける“ことばのかたち

常に隣にあった「書」

書道教室で、子どもから大人の方まで、さまざまな年代の生徒さんに書道を教えています。
うまく書こうとする気持ちも大切ですが、それ以上に、筆を持つ時間を通して
“自分と向き合うこと”を大事にしてほしい──そう思いながら日々向き合っています。
一文字一文字に心を込めて書くことで、気持ちが落ち着いたり、自分らしさに気づけたり。
書道は、ただの技術や習い事ではなく、心を整える時間にもなると感じています。

教室の外では、商品パッケージや書籍の題字、広告の筆文字など、筆を使った表現のお仕事もさせていただいています。
また、イベントなどで書道パフォーマンスを行うこともあります。
普段の書とはまた違い、その場の空気や感情までもが筆に乗っていくような感覚があって──
書が人に伝わっていく、その瞬間がとても好きです。

書道を始めたのは、特別なきっかけがあったわけではありません。
私の家は、祖母の代から書道教室を営んでおり、父が継ぎ、私で三代目になります。
物心がついたときには、筆も墨もすぐそばにありました。
いつしか自然と書道を始めていました。

小さい頃の夢と、デザインへの想い

きっかけは、ひとつの映像からだった

実は、子どものころから「書道家になろう」と思っていたわけではないんです。
小学生の頃は、デザイナーや特にファッションデザイナーに憧れていました。

デザイナーの憧れは中学生になっても変わらず、テレビで流れていたあるCMに心を奪われたことがありました。
言葉では言い表せないような感動が胸に広がって、「私も、こんなふうに人の心を動かせるものを作りたい」と、強く思ったんです。
そこから、ファッションデザイナーというよりも、グラフィックなどの“視覚で伝えるデザイン”に興味が強く移っていきました。

その頃も、書道は続けていました。
でも、頭の片隅には「デザインの道に進みたい」という気持ちがあって──

高校に入ってからは、進学先をどうするか真剣に考えるようになりました。
書道が学べる大学に進むか、それともデザインの大学を目指すか。どちらの道も魅力的で、たくさん悩みました。

そんなとき、祖母に相談したんです。
すると祖母は、「書道は、家でも学べるからね。これからの時代、デザインを学ぶのもいいんじゃない?」と、そう言ってくれて。
私自身は迷ってばかりだったのに、祖母のその言葉がとてもうれしくて──
「ああ、私はやっぱり、デザインを学びたかったんだな」って、はっきり気づかされたんです。

東京か、地元か。進路の分かれ道で見えた“本当の気持ち”

決め手は、祖母の一言でした

大学ではグラフィックデザインを専攻しました。
その中で、「タイポグラフィ」という、文字のかたちやフォントの構造を学ぶ授業があって──
その時間が、本当に楽しくて仕方がなかったんです。
自分の中にある“文字への関心”が、こんなにも強かったんだと気づかされました。

やりたいことを学び、毎日が刺激的でした。
けれど、いざ就職活動という段階になったとき、自分の中にふと迷いが生まれました。

周りからは、「一度、東京で経験を積むのもいいよ」と背中を押してもらい、実際に内定もいただきました。
でも──心のどこかで、ずっと引っかかっていたんです。

このまま地元を離れたら、祖母に書道を教えてもらえる時間は、もう戻ってこないかもしれない。
ここを離れたくない、という気持ちが、だんだんと大きくなっていきました。

「自分が本当にしたいことは、なんだろう?」
あらためて向き合ったときに、祖母に教わる“今”こそがかけがえのない時間だと気づいたんです。
それなら、家業である書道教室を一緒にやらせてもらいたい──そう思い、家族に気持ちを伝えました。

家の門をたたき、書道の資格取得に向けて学び直し、そして本格的に“書の道”へ進むことを決めました。

先生”って呼ばれるたびに、嬉しくなるんです

笑顔と成長が、私の原動力です

書道教室に通ってくれている子どもたちが、目を輝かせながら「先生、先生!」って無邪気に声をかけてくれるんです。
その笑顔を見るだけで、ふっと肩の力が抜けるような、なんとも言えない幸せな気持ちになります。

生徒の中には、コンクールなどで賞をいただける子もいて、
「これが自分の得意なことなんだ」と感じてくれたときには、やっぱりこの仕事をしていて本当に良かったなって思います。
書道が自信になって、その子の中に残ってくれたら、それが一番嬉しいんです。

子どもたちの笑顔は、何よりも特別ですね。日々、癒されながら教えています。

一方で、大人の生徒さんからは、人生の知恵や経験を聞かせていただくことも多くて。
「教える」という立場ではあるけれど、どこかギブアンドテイクのような関係で、
私自身の子育てに役立つような学びもたくさんいただいています。
そういう温かな交流も、教室の魅力であり、私のやりがいにもつながっています。

書道教室で大切にしていることは、“書を好きになってもらうこと”。
そして、できるだけたくさん褒めて、前向きな気持ちで取り組んでもらえるような環境づくりを心がけています。
これは、作品制作のお仕事や書道パフォーマンスにおいても、根っこは同じかもしれません。

特に、パフォーマンス書道に関しては、書の文化そのものをもっと多くの人に届けたい、
興味を持ってもらいたいという思いがあります。
書道って、「ただ正しく美しく書くこと」がすべてじゃないと思うんです。
そこに“自分らしさ”を込めてもいい。
書は、もっと自由でいい。そんな“自己表現の場”としての書の可能性を、伝えていきたいんです。

そもそも「書く」という行為は、人間にしか与えられていない特別なもの。
特に日本人にとっては、言葉と文字の関係がとても深くて、
“書”という文化は、私たちのアイデンティティにも通じるものなんじゃないかな、と感じています。

表現の形に、正解はいらない

これも“書”なんだと、ようやく思えるようになりました

自分の作品に“自分らしさ”を感じる瞬間って、実はすごく繊細なもので。
私はデザインの勉強をしていたこともあり、ただ感覚だけで書くのではなく、どこかで文字を客観的に見る目も持っているのかもしれません。

もちろん、基本となる書道の土台は大切にしています。
でもそのうえで、「自分は今、どんな気持ちで、何を伝えたいのか」──
その“心の在り方”を、とても大事にしています。

書って、やっぱり“心の表れ”なんですよね。
だからこそ、一文字を書くまでの“心の準備”がとても大切で。
自分のプライベートや日常で気持ちがモヤモヤしていたりすると、
どんなにいい言葉を選んでも、それはちゃんと文字ににじんでしまう。

だから私は、書くときは心を整えることから始めます。
「この言葉を、今の自分はどう書きたいのか」──その気持ちを見つけてから、筆をとるようにしています。

書道パフォーマンスを始めたばかりの頃は、正直、人の目が少し気になっていました。
書道の世界には、長く研鑽を積まれている先生方や、正統を重んじる方もたくさんいらっしゃって。
“書をパフォーマンスにすること”に対して、批判的な目があることも、わかっていました。

とくに私は、筆を途中で止めずに勢いを大切にしたり、色を加えてみたりと、
いわゆる「伝統的な書」とは違うスタイルを選ぶことも多くて──
最初は、「こんな書き方をしていいのかな」と、葛藤することもありました。

でも、今ははっきりと言えるんです。
これも“書”なんだと。

私が感じたこと、伝えたいことを、自分なりの方法で表現しているだけ。
それを否定する人がいたとしても、その人が間違っているわけじゃないし、私も間違ってはいない。
どちらも、考え方が違うだけ。

なので、誰かに何かを言われて立ち止まることはしません。
私は、私の書を、信じて進んでいくだけです。

そして子どもたちには、書くことの楽しさや、表現することの面白さを感じてもらえたらと思っています。
大人になったときに、少しでも「書っていいな」「和の文化って素敵だな」と思い出してもらえたら、それがいちばん嬉しいですね。

会社情報

会社名略称. 下田書道会
勤務先名 下田書道会
本社住所 新潟県加茂市幸町1‐7‐20
代表者名 下田 彩水様
1年後〜3年後の目標 \かなえたい夢/
書の魅力を伝えるのは、日本の中だけじゃなく、海外にも広げていけたらと思っています。
海外で書道の文化を発信して、現地の方に評価してもらえた経験を、また日本に持ち帰って──
それがきっかけで新しく書に興味を持ってくれる人が増えたら、こんなに嬉しいことはありません。

私自身も、もっと海外に行って、いろんな場所で書を表現していきたいという想いがあります。

それから、将来は…娘たちと一緒に、書道パフォーマンスができたら素敵だなって。
親子で“書”を通じて何かを届けられたら、とても幸せですね。
こんな人に会いたい 出会いたい人/
どんな分野でも、何かに一生懸命取り組んでいる方が大好きなんです。
意欲的に挑戦し続けている姿って、とてもかっこいいなと思います。
そういう方には、お会いしてたくさんお話を聞いてみたいですね。
それから、私自身いつか海外にも挑戦してみたいという気持ちがあるので、
すでに海外でチャレンジされている方ともお話してみたいです。きっと、たくさんの刺激をもらえる気がしています。
事業内容 書家・講師・コマーシャル・カリグラファー
その他 下田彩水(活動・お仕事の依頼)
https://saisui-s.jp
下田書道会本部(教室等のご案内)
https://simodashodou.jimdofree.com

取材者情報

今回の社長へのインタビュアーのご紹介です。
「話を聞きたい!」からお問い合わせを頂いた場合は運営会社の株式会社採用戦略研究所を通して、各インタビュアー者よりご連絡させて頂きます。

取材者名 ㈱採用戦略研究所 土田
住所 新潟県長岡市山田3丁目2-7
電話番号 070‐6433‐5645
事務所HP https://rs-lab.jp

話を聞きたい!