未来志向経営者インタビューサイト「新潟社長図鑑」

湯に遊び、人とつながる_月岡温泉「曙」のこれから【代表 樋口大介氏】

湯遊び宿 曙

祖父母の言葉に導かれて

世界を巡り、再び月岡へ

今年で創業102年を迎える「湯遊び宿 曙」。私は小さい頃から、祖父母に「いずれは跡を継いでほしい」ではなく、はっきりと「継ぐんだぞ」と言われ続けて育ちました。

進学先に選んだのは、ホテル系の専門学校。その後は東京のホテルで修行を積み、約4年間でさまざまな部署を経験しました。退職のタイミングを決めていたわけではありませんが、「そろそろ地元に戻る時期かな」と思うようになったんです。

ただ、戻る前にどうしてもやりたいことがありました。それは“海外を見て回る”こと。家業を継いだらなかなか時間が取れないと思い、退職後の3〜4か月でオーストラリア、アメリカ、カナダ、ペルー、アルゼンチン、イギリス、フランス、フィンランド、香港……と、多くの国を旅しました。観光地を巡りながら、世界の“おもてなし”を肌で感じられたことは、今の私にとって大きな財産になっています。

地元に戻ってからは、跡取り息子だからといって特別扱いされることはありませんでした。お布団敷から皿洗い、配膳、接客まで、現場の仕事を一から経験しました。最初は抵抗を感じるスタッフもいたと思います。だからこそ「同じ目線でやること」が大事だと考え、仲間と一緒に汗を流すところから始めたんです。

いまでも接客や販売を自ら行い、インターネットでのプラン立案や経営の仕事と並行しています。平成27年に社長を引き継ぎ、気づけばもう10年近く。
「現場と一緒に」という想いは今も変わりませんが、経営を任される立場になってみて初めて見えた課題もありました。

一番最初にぶつかった壁

地元に愛されるための第一歩

一番最初にぶつかった壁は、売り上げの低迷でした。引き継いだ当時は今の3分の2ほどしかなく、とにかく“旅館自体が知られていない”状況だったんです。まずは新潟県の方に知っていただくこと、そこからのスタートでした。

そのために、館内の雰囲気も大きく変えました。以前は白を基調とした旅館で、清潔感はありましたが、逆に“目立たない”存在になっていたんです。そこで思い切って、和の趣を感じさせる深紅色を取り入れ、華やかさと印象に残る雰囲気へと一新しました。さらに料金も大胆に下げ、「とにかく目立つこと」を最優先に取り組みました。外部コンサルの意見も取り入れながら、少しずつ改善を重ねていったんです。

マーケットの中心は、今も昔も新潟県内のお客様です。全体の7割ほどを占めていますから、まずはその方々にどう喜んでもらえるかを考えました。新潟のお客様は普段から美味しいお米や食材を食べ慣れている。だからこそ、あえて県外の食材を取り入れ、珍しさや新鮮さを感じていただける工夫をしました。

また、料理は季節ごとにチェンジ。年に4回は難しくても、2回足を運んでくださるお客様には「また違った料理を楽しめる」という体験を提供しています。価格帯としては月岡温泉の中でも比較的手頃。だからこそ“非日常を気軽に楽しめる宿”として、選んでもらえるように少しずつ形を変えていったんです。

料理・客室・湯――三位一体の魅力

目で、舌で、湯で楽しむ宿

うちの料理はコースによって内容が変わるんですが、必ず「これぞ!」という目玉の一品を入れるようにしています。味はもちろん大切なんですけど、せっかくなら“目でも楽しんでもらいたい”んです。前菜ひとつとっても、職人の技を感じてもらえるように、彩りや盛り付けに工夫をしています。

客室も実はちょっとユニークで、25室あるんですけど、同じ造りの部屋はひとつもないんです。これは先代たちが残してくれた工夫で、私も「よく考えたなぁ」と思いますね。そのうち3室には客室露天風呂があって、月岡温泉の源泉をそのまま引いています。実は“客室で源泉を楽しめる”のは、月岡では曙だけなんですよ。

温泉も面白くて、同じ源泉なのに湯舟によって見え方が変わるんです。曙のお湯はエメラルドグリーンに見えますけど、実はタイルは真っ白。タイルの色や湯舟の大きさ、湯量で違った表情を見せてくれるんです。硫黄の香りも独特で、「ああ、温泉に来たな」って感じがしますよね。

実は宿の名前も、私が社長になってから変えました。昔は「ホテルニュー曙」だったんですが、“湯遊び=湯を楽しむ”という想いをもっと込めたくて、「湯遊び宿 曙」に。名前を変えるって勇気がいりますけど、やっぱり今のほうが宿の雰囲気に合っているなと思っています。

逆境を追い風に変えた転機

月岡初、源泉を引いた客室露天の誕生

ここまでやってこられたのも、大きな転機があったからです。実は、露天風呂付き客室は昔からあったわけではなく、コロナ前に「これから作ろう」と計画していたものでした。融資も決まり、「よし、いよいよだ!」と思った矢先に……新潟県でもコロナが発生。そこからおそろしいほどキャンセルが続き、「このまま計画を進めていいのか」と、正直すごく悩みました。

でも「もう船に乗ったんだから、やるしかない」と腹をくくったんです。その決断が結果的に大正解でした。非常事態宣言で2か月ほど休業しましたが、その間に改装工事を進めることができ、再開後は“露天風呂付き客室”が一気に人気に。世の中が「人混みを避けたい」という流れになり、“個室で源泉を楽しめる宿”はまさに時代に合ったんです。

最初は様子を見ながら料金を抑えめに設定していたんですが、周りから「安すぎるよ!(笑)」と言われて、適正な価格に改めました。それでもお客様はしっかり定着してくれて、とても良い反響がありましたね。

もしこの計画がなかったら、コロナの時期はもっと苦労していたと思います。実際にはコロナ前からの計画でしたが、報道の方からは「コロナ禍に合わせて作ったんですよね?」と取材を受け、とある新聞社にも取り上げていただきました。月岡で初めて“源泉を使った露天風呂付き客室”を備えた宿として、多くの注目を集めるきっかけにもなったんです。

続けるという覚悟、紡ぐという使命

非日常の時間を、これからも月岡で

温泉宿の経営って、華やかに見える部分が多いかもしれませんが、実際は“設備産業”なんです。新しく作るだけじゃなくて、維持するのにとにかくお金がかかります。例えばエアコンひとつにしても、温泉成分の影響で壊れやすく、修理や交換が頻繁に必要になります。大浴場の脱衣所なんて、年に2回くらいエアコンを入れ替えることもあるんですよ。
もはや“消耗品”感覚です(笑)。こうした温泉地ならではの苦労は、お客様にはなかなか知られていない部分かもしれません。

そこに加えて、今は物価高という現実もあります。私たちの商売は、生活に絶対必要なものではありません。もちろん「心の安らぎ」や「非日常の体験」としての価値はありますが、お客様にとっては「1年や2年、我慢できる」ものでもある。だから、自分の努力だけではどうにもならない時があるのも事実です。それが温泉宿を経営する難しさなんでしょうね。

それでも、やっぱりやるべきことはシンプルで、“お客様に楽しんでもらうこと”に尽きると思っています。そして同時に大事なのは、従業員がヒマにならないようにすること。季節によってどうしても波がありますから、創業月にはキャンペーンを打つなど工夫をして、常に稼働させることを意識しています。

決して楽な道ではありません。でもその分、喜んでくださるお客様の笑顔が私たちの力になります。これからも「湯遊び宿 曙」として、月岡温泉に新しい風を吹かせながら、ここでしか味わえない時間を紡いでいきたいと思います。

会社情報

会社名略称. 湯遊び宿 曙
勤務先名 湯遊び宿 曙
本社住所 新潟県新発田市月岡温泉552‐4
代表者名 代表取締役社長 樋口 大介様
1年後〜3年後の目標 これから先を考えると、どうしても人口減少の問題は避けて通れません。新潟から県外へ出ていかれる方も多く、県内のお客様だけに頼るのは難しくなっていくと思います。だからこそ、これからは海外のお客様に目を向けていくことが大切だと感じています。

 まだまだこの地域はインバウンドへの取り組みが少ないのが現状です。だからこそ、海外サイトとの提携やSNS(Facebookなど)での発信を強化し、少しずつでも積極的に進めていきたいと思っています。国内だけで物事を考えるのは、これから先リスクが大きいのではないでしょうか。

 さらに、温泉だけに頼るのではなく、“月岡に来る目的”をもっと増やしていくことも重要だと思っています。街全体で新しい魅力をつくり出し、「温泉+α」で楽しめる場所に育てていけたら嬉しいですね。
新規事業・チャレンジしたいこと 月岡温泉には、旅館だけでなくお土産屋さんや飲食店など、外のお店を楽しめる仕掛けがあります。実はこの取り組み、旅館の経営者たちが集まり、出資して立ち上げた「合同会社ミライズ」という会社が運営しているんです。今からおよそ11年前にスタートし、現在は漢字一文字で表現したユニークな店舗が11店舗ほど並んでいます。

 地酒やワイン、米菓、和菓子など、新潟ならではの味わいや商品を取りそろえ、おしゃれな雰囲気で観光客の方を迎えています。さらにスタンプラリーを企画し、お客様が“温泉街を歩きながら楽しめる仕組み”も工夫してきました。

 「歩いて楽しい月岡」をキーワードに、これからも温泉だけでなく街全体でお客様をお迎えしたいと思っています。月岡にお越しの際には、ぜひこうした店舗も巡っていただき、温泉街の魅力を丸ごと味わっていただければ嬉しいです。
こんな人に会いたい これから一緒に出会ってみたいのは、まず“素直な人”。そして自分の意見をしっかり持ちながらも、まわりを見渡せるような人です。そういう人がいると、チーム全体がぐっと良くなりますからね。

 あとは、欲を言えば……私の“右腕”になってくれるような人に出会えたら嬉しいです(笑)。
事業内容 温泉旅館業
その他 こちらもご覧ください‼
http://www.yado-akebono.jp

取材者情報

今回の社長へのインタビュアーのご紹介です。
「話を聞きたい!」からお問い合わせを頂いた場合は運営会社の株式会社採用戦略研究所を通して、各インタビュアー者よりご連絡させて頂きます。

取材者名 ㈱採用戦略研究所 土田
住所 新潟県長岡市山田3丁目2-7
電話番号 070‐6433‐5645
事務所HP https://rs-lab.jp

話を聞きたい!